翌日の日曜日、
一ノ瀬くんに誘われて、
花籠神社に向かった。


手をつないで、
一ノ瀬くんと一緒に
ゆっくりと石段をのぼると、

葉を落とした
木々の間を冷たい風が通り抜ける。


そのひんやりとした風に
体をちぢめていると、

一ノ瀬くんの憂いを湛えた眼差しに
包まれた。


「天野、大丈夫?」


「うん、大丈夫だよっ」


小さく笑うと
一ノ瀬くんがいっそう強く、手をにぎる。


「無理するなよ。
俺が一緒にいるんだから」


一ノ瀬くんの言葉にホッと肩のちからを抜き
ゆっくりと足をすすめる。


すると、冷たい風に目を細めた一ノ瀬くんが
柔らかく微笑む。


「あのときも、こうやって
この石段をのぼったんだ」


隣を歩く一ノ瀬くんを
見上げる。


「手をつないだら、
天野、今みたいに真っ赤になって。

俺も、すごく緊張してて。

天野が俺だけのものに
なればいいのにって想いながら、
この石段を上ったんだ」


一ノ瀬くんの言葉に
きゅっと口を結ぶ。


「どうした、天野?」


少し長めの前髪を風になびかせて
優しい眼差しを向ける一ノ瀬くんを

ちらりと睨む。


「……うそだ」


「え?」


「だって、
一ノ瀬くんはすごく落ち着いてて、
私ばっかりドキドキして。

どうしたらいいか、分からなかった」


ぷくっとほっぺたをふくらませると
一ノ瀬くんが吹き出した。


「そういえば、天野、
変なこと言ってたよな。

罰ゲームとか願掛けとか!

動揺してる天野が可愛すぎてヤバくて、
絶対に手、はなしてやらないって
思ってた」


いたずらな顔をして一ノ瀬くんが笑う。


「ひどい、私は本気で困ってたのに」


と、それを聞いた一ノ瀬くんが
真剣な顔をして足をとめる。


「天野、もしかして……
俺と一緒にここに来たこと、
思い出した?」


深い眼差しで一ノ瀬くんに見つめられて、
コクリとうなずく。


「全部、思い出せてるのか
わからないけど。
……多分、思い出した、と思う」


手をつないで、
ふたりで無言のまま、
石段をのぼる。