【一ノ瀬 side】

日曜の試合本番、順調に勝ち進み、
なんとか決勝までたどり着いた。


試合が始まると、

ドリブルからのレイアップシュート、
さらにスリーポイントを重ねて
相手チームを引き離す。

後半、試合の流れが悪くなろうと、
チームに疲労が見えようと

一心にコートを走りまわり
リバウンドからボールを奪う。

手にしたボールは
ドリブルからトラップ、
すぐにシュートを狙う。

相手の隙をついて
連続でスリーポイントを決める。

走れば走るほど神経が研ぎ澄まされて、

手にしたボールは
正確にゴールへと吸い込まれていく。


軽く目をつぶれば、
そこには天野の笑顔が浮かび、

天野のことを想えば、
いくらでも走れる気がした。


強豪校を相手に
圧倒的な点差でゲームを終えると、

大会の優勝と
スリーポイントシュートでの
俺のMVPが確定した。


表彰式が終わると、
すぐに約束した非常階段に向かい、
そこから天野に連絡した。

けれど、

メッセージに既読もつかないし、
電話もつながらない。


興奮して浮かれた心が、
次第に霞がかり深く沈んでいく。


MVPを取れたら
天野に好きになってもらえるんだと、

思い込んでいた。


約束した非常階段で天野を待つものの、
陽は遠くに沈み、気温が下がる。

冷えた汗に、体を震わせる。


天野と連絡の取れないまま
時間が過ぎていった。


冷静になると
急に不安になった。

天野とふたりで過ごした時間に浮かれて、
周りが見えなくなっていた。


照れたように笑い、 

恥ずかしそうに 
顔を赤くする天野が浮かぶ。


そんな天野の姿に、

少しは俺のことを
意識してくれるようになったんだと

勝手に思い込んでいた。

一方的に天野に迫って
自分の気持ちを押し付けたけれど、

天野は俺の気持ちには答えられないと
そう思ったのかもしれない。


ワガママで勝手だと分かっているけど、
天野に会いたくてたまらなかった。


たとえ、
振られることになったとしても

MVPを取ったことを、
直接、天野に伝えたかった。