「泣きそうな顔して、どーした?」



聞きなれた声にあたしは顔を上げる。



きらきらと後光(ごこう)がさして見えた。ほんとに見えた。



つぼみが開き始めた薄紅の桜並木。



卒業証書を片手に持ち、中学の制服に“祝卒業”の胸章をつけた彼はフッと笑った。



途方もない心細さを抱えた今、彼の存在は心強くてしかたないんだ。



朱里(しゅり)くん……」



藁にもすがる思いで、中学三年間着尽くしただろう学ランに手を伸ばす。



「お願いがあるの……! パパを説得して……!」



朱里くんを見上げて懇願していると、コツンと頭を叩かれた。



「……高いよ?」



あたしを助けてあげる、そういう声色。



うん……なんでも差し出す……。って思った。






【君に惚れた僕の負け】