ケータイ小説 野いちご

弱くて強い、お姫様。

弱くて強いお姫様


つばきside


『紫苑がいる』


お父さんが発した久しぶりに聞く単語に、少しだけ動揺した。


ドアを一枚挟んで紫苑がいる。


そう思うと、今すぐ開けてしまいそうだった。


でも離れるって決めたじゃん。そうやって自分を止める。


そうでもしないと手を伸ばしてしまう。


紫苑の訪問を拒むと、お父さんと紫苑が会話しているのが聞こえた。


つい一週間前まで毎日のように聞いていた声。


その声の主は、私を探しているみたいだった。


澄澪やのんちゃんから、「つばきのこと聞かれたよ」と報告を受ける度に、「何も言わないで」とお願いした。


こうやって、紫苑の存在を確認してしまったら、今よりもっと好きになって辛くなる。


だから会いたくなかったのに。


「つばき」


紫苑は優しく私を呼ぶ。


「話がしたい」


無理だもう。


扉を開けると、綺麗な紫色の髪の毛が目に入る。


一週間しか経ってないのに、その色だけで視界が歪む。


この一週間、紫苑に関する単語とかをみつけたら、それだけで紫苑と一緒にいたときのことを思い出していた。


完全に扉を開けると、紫苑は目を見開いて立っていた。

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