毎年、この季節になるとうっとうしいくらいに寄って来られる女子社員には毎回辟易としていた。
 それでもそんなことは顔には出さずに、サラッと受け取って流すのが一番無難で早かったからそうしてきた。
 会社では温厚、優しいし仕事のできる男と言われている。
 確かに努力しているし、人には優しく接しているけれど一番優しくしたいのは俺にとっての大切な彼女だけである。

 三橋涼音は俺の四期下で入ってきた後輩で、広報部に配属された初めに新人教育で教えた後輩にあたる。
 最初は新人の女子社員の教育係なんて正直面倒だとしか思ってなかった。
 いまならとんだうぬぼれだと思うけれど、そこそこ外見が良いのもあって大抵仕事で異性と関わると途端に色目を使われることが入社から続いたため警戒していたのだ。

 しかし、涼音は違った。
 真面目に話を聞き、仕事に取組み分からないことは即聞きにきてメモを取り、その後はしっかり仕事を進められるしっかりしたタイプの子で、前年に担当して全く仕事をせず「分かりませーん、教えてくださーい」というダメ女子とは違った良い子だった。

 しかも一度教えたことはしっかり飲み込むし、分からなくってもその個所を聞いて教えれば次に同じことを聞かれることは無い。

 そして何より、俺を男として見ない若手の女子社員は初めてだった。
 そうして新人教育を終えた後は部内での事務兼広報部のお局的な高野加奈子さんに気に入られて、涼音はさらに事務スキルと広報の仕事を着実に教わって仕事の腕を上げていった。

 そんな部内で一緒に仕事をしても、同じチームに居ても彼女の俺への態度は変わらなかった。
 そんな彼女を自分が気にして目で追っていることには、涼音の入社から数か月のうちに自覚した。

 これが俺にとっての久しぶりのまともな感情であることも、同時に自覚してそこからはいかに彼女に意識してもらうかを考えるようになった。