「ねえ、志勇」

「……」



妊娠15週目。


長く続くかと思われていたつわりもだいぶ落ち着いてきた夏の始め。



「だってそれが約束だったでしょ?ねえってば」

「……」



今日はひょんなことから志勇があまのじゃくに変身した。


デスクに座る彼の横に立って、いくら話しかけても腕を引っ張っても反応なし。



「もう、こういうやり取り何回目!?」



ずいぶん元気になったわたしは声を大きくした。



「意地っ張り!わがまま!俺様!ドS!」



強情な志勇を振り向かせるために口々に悪口を吐く。


すると志勇の手がわたしの後頭部に伸ばされて───



「うるさい」

「あむっ……」



志勇の唇によって口を塞がれた。


長く唇を重ねるだけのしっとりとした口づけ。


不思議と苛立ちは抑えられて、なおかつ心身が潤った気がした。