なんで一番欲しいものがひどく壊れやすい場所にあるんだろう。

それでも俺は、お前のことが欲しかった。


学校終わりの放課後。俺はとてもいい匂いがする部屋で、手触りのいいマシュマロクッションを背に座っていた。


「やばい、嫌われたかもしんない」

ずっと仁菜に突き飛ばされた胸が痛い。


自分では制御してるつもりだったけれど、さすがにスカーフに手をかけたのはまずかったんじゃないかと思っている。


「女の子は男が思うよりずっと敏感ですから。ね、ララ?」

俺に向けてシャーっと威嚇(いかく)してるララのことを志乃は意図も簡単に抱きあげていた。


「いや、ララのことじゃねーし」

「わかってるよ。仁菜子ちゃんのことでしょ」

志乃は落ち込んでいる俺に目ざとく気づいて、家に呼んでくれた。


志乃の部屋に来るのは久しぶりだ。中学の時には晩ごはん目当てで毎日入り浸っていたけれど、色んな女と知り合ううちに遊びにいく回数は減った。


「柊が久しぶりに来たから、お母さん張り切って料理作ってるよ。食べていくでしょ」

「うん」

「じゃあ、私が柊ママに連絡しとくね」

志乃は母さんの連絡先まで知っている。いつか親父ともメッセージのやり取りをはじめていそうだ。