「おはよう叶くん、あっ、おはよう服部くん」

昨日席替えで隣の席になった藤咲の顔を、席につくなり思わずじっとガン見する。

今から一時間ほど前、俺は彼女と同じいつもの電車に乗っていた。

今朝も彼女は、小学生のたくを庇うように乗りながら楽しそうに可愛らしい顔を綻ばせて話していた。

彼女の横顔をこっそり盗み見ていた俺の視線に気がついたたくは、俺にだけわかるように小さく親指をたててニッと笑い合図する。

たくに何かを言われた彼女は、いつもかけている黒縁眼鏡に手を添えると、スッとかけていた眼鏡を外した。

「！！」

ダメだ…見えねぇ。

今まで横顔を俺に見せていた彼女は、眼鏡を外す瞬間くるりと俺に背を向けた。

「チッ！」

思わず舌打ちした俺とたくの目が合い、たくは俺に目配せすると俺の後方を指差して、その指先を追うように振り向いた彼女と…数秒ばっちり目が合った。