学園への通勤中の空路バスの中で、加藤仁志の肩を小さく揺らす電気信号のバイブが鳴った。



この小さく肩を揺らす電気信号のバイブは、加藤に電話があったことを知らせる合図だ。



加藤は空路バスの座席にもたれながら、目の前にマイページのモニターを映し出すために、人差し指を胸の高さで左から右へと横に流した。



すると何もなかったはずの空間に加藤のマイページのモニターが現れ、加藤はマナーモードに切り替えた後にモニターにある受話器のマークをタップした。



マナーモードにしたことにより、電話の主の声が直接、加藤の耳にだけ聞こえてくる。



そして穏やかに始まるはずだった加藤の朝は、ネット電話から聞こえてきた慌ただしい声にかき消された。



「加藤先生、大変です!

3年2組の小原紗栄子が校舎から飛び降りて自殺しました!」



同僚の女教師、中川峰子の金切り声に加藤の心臓がドキリと跳ねた。



自分が受け持つ教室から自殺者が出てしまった。



それは加藤の教師としての評価を大きく下げてしまう大事件だ。



加藤はそのことに狼狽しながら、満員の空路バスの中で、小声で中川に言葉を返した。



「中川先生、それって何かの間違いですよね……」



「間違いなんかじゃありません!

今、学園内は小原紗栄子の自殺で大騒ぎなんですよ!」