葵side

シーンと静まり返った廊下。既にHRが始まっているため、周りには誰もいない。

私は1人ぽつんと教室の扉の前に立っている。先生はといえば先程教室の中に入ってしまった。

現在の状況は所謂「呼んだら入ってきてください」というところだろう。


「今日は転校生を紹介します」

「おお!まじで!」

「男?女?」


先生の一言に色んな声が反応する。

正直そんな期待されても困るなぁ。私美人でもイケメンでもないし。

そんな私の心中を知ってか知らずか先生は笑顔で手招きをする。

複雑な胸の内をひとまず押さえつけ、意を決して扉を開けた。教卓の所まで行くと、こそっと「自己紹介を」と言われたので簡単に。


「水瀬葵です。よろしくお願いします」


名前を言ってから深々と頭を下げる。えらく静かだなと思っていた次の瞬間、教室の中は一気に騒がしくなった。


「すっげー美人…」

「可愛い子だなぁ」

「俺友達になりてー!」


目の前の光景と聞こえてくる会話に少し驚いだが、気にするのはやめにして自分の席に着いた。

窓側の一番後ろの席。まだクラスメイトからの視線を感じたけれど、気づかないフリをして窓の外に目を向ける。


ここ東雲高校はちょっと偏差値の高い私立校。なのに族関係者がそこそこいることでも知られる不良校でもある。

たしかこの学校には双龍のメンバーが通っていたはず。できれば関わりなく過ごしたいなぁ。

なんていう私の望みはすぐに砕かれた。