私のバイト先はクノさんの行きつけの店らしいけれど、バイト中に彼を見かけることはなかった。

音源サイトにも曲は増えていない。


そんな日々が続く中、


「クノさんから連絡あった! カラオケ誘ったら、いいよって」

「まじ? ミハラさんも来るの? やばいうちらも歌の練習しなきゃ~」


穂波さんのアプローチにより、再びクノさんと会う機会ができた。

私はメンバーに入っていないと思ったが、男子が4人来るから女子も4人で来てと言われたらしく、一緒に行くことに。


待ち合わせ場所である下駄箱前に向かう。

その途中で先生とすれ違った。


「穂波、お前今日、図書館当番じゃないのか?」

「あ」


サボるなよ~! と言って、先生は去っていく。

穂波さんはげっそりした表情になった。


「うっそ~委員会のこと忘れてた。まじダルい……」


穂波さんは今日、放課後の図書館係の日だった。


どーする? 先行ってる? でも図書館終わるのの夕方だよ?


目の前には困った様子で相談し合う女子たち。


みんな今日のカラオケ会を楽しみにしてきたのは、知っている。

男子たちが好きそうな曲をリサーチして練習したらしいし、穂波さんは気合いが入ったメイクをしている。


「あーあ。誰か代わりに行ってくれないかなぁ」


穂波さんはちらりと私に視線を向けた。

他の女子も早く解決したいという空気を出している。


「じゃあ、私が行こうか?」


そう伝えると、穂波さんは一瞬だけ嬉しそうな顔を浮かべ、すぐ申し訳なさそうな表情を向けてきた。


「でも悪いよ。しかも、何したらいいか分からないでしょ?」

「私もたまに本借りるし、何となく仕事分かるから」


本当ごめんね! 今度埋め合わせするから! 後で写真送るね!


穂波さんの声をBGMに図書室へと足を進めた。


これでいいんだ。穂波さん喜んでくれたし。


ただ、うすうす気づいてはいた。

私、いつも頑張って穂波さんたちに話を合わせているのに。

彼女らにとって、きっと私は都合のいいだけの存在なんだろうな。