その日はまだ正午では無いのに昼食のサイレンが鳴り響いた。
甲高くうるさい。

何事だろうか辺りがザワつく。
 
私は作業を辞め。腕時計を確認した。
やはりまだ昼食の時間ではない。
何事だろうかサイレンの故障だろうか周りの作業員も作業を辞め辺りを見渡す。
「あれ、はやくないか?」
先輩の土田さんだ。首を傾げながら辺りを見渡す。
「そうですね、どうしたんですかね」
私は呆然と時計を見たり持ち場のに戻ろうか悩んでいた。休めるは有難い。気持ちが緩む。
「作業を辞めて下さい」
工場内全体のアナウンスが入る。初めての体験だった。回りの皆がザワザワと話し出す。
「工場内に子供が迷い込んだ可能性があります皆さん確認作業をお願いします。繰り返します工場内に子供が入ってしまった可能性があります皆さん確認作業をお願いします」

子供が迷い込んだのだろうか本当なら大変な事だ。ここはスクラップ工場だ鉄クズを処理している。毎日毎日鉄クズをプレスして再利用出来るようにしているのだ。しかしどうやって侵入したのだろう大人がすぐに気がつく物だと思うのだが、はやく見つかればいいのだがひとまず私の周りには子供はいなかった。
「見たか?」
「いや見てないですね」
「いないよな」
「そうですね」
「てかいたらすぐ気づくよな」
「そうですよね」
 私の作業場は工場内でも奥の方でこの工場の肝となる一番肝心な鉄クズのプレスをしている場所だ。仮に侵入したとしてもいくつもの部屋を通らないとここに来る事は出来ないだろう。ここに来るまでにまず誰かに発見されるだろう。
「いたか?」
班長が小走りで作業所に入ってきた。
「いや、ここにはいないですよ」
「それがここで見たらしいんだよ」
「え」
「取り敢えず皆、もう少し探してみてくれ」
「わかりました」
私は絶対に見間違いだと思い辺りを適当に探しはじめた。数分物陰を探して見たが勿論子供なんて発見出来なかった。そもそもいるはずが無いのだ。
数分真面目な大人が血眼になり探した。私も半信半疑で探したがやはり見つかることは無かった。
そしてサイレンがまた鳴り響く今度は本当の昼のサイレンだ。私は正直作業を休めてラッキーだと思っていた。
「なんだったんだろうな」
「そうですね」
「幽霊かね」
「はあ、幽霊ですかね、幽霊にしても何の霊ですかね」
「ちょうど今朝事故車が来たから皆それじゃないかって言ってたよ」
「え、マジですか、子供が死んだんですか」
「それがどうやら相当スピード出しての正面衝突だったらしいけど死者は出なかったらしいんだよね」
「え、じゃあ関係ないじゃないですか」
「そうなんだよね、全く難儀な話だよ」
先輩は500円の唐揚げ弁当を食べながら首を傾げていた。
私も不思議な話だと思い聞いていたが食堂の中では迷い込んだ子供の話で持ちきりだった。
 この工場には事故車は大勢来る。例え霊だとするならこの工場は幽霊で溢れかえるの事になる。有り得ない事なのだ。

気のせいだろう。大方皆そう思い午後には仕事は再開された。ぺちゃんこになった鉄の塊が来た。元々は2台の車だとは思えないほど変形してる。よく死者が出なかったものだ。
これだけの形になるにはどれだけのスピードが出ていたのだろう。想像するだけで恐ろしい。
「本当にぺちゃんこだな」
「そうですね」
「まあ、さっさと処分しましょう」
「そうですね」
 何はともあれ、例え霊がいるとしても仕事は仕事これを処分しない事にはいけない。
私はクレーンに乗りそれを処分しようとした。そうすると鉄クズの周りには作業員が集まっていた。
「どうしたんですか」
「いや、さっき子供が」
「え、本当ですか?」
「ああ、この鉄クズの近くでそれにここ何か変な臭いしないか?」
「いやどうでしょう」
私はマスクを外して臭いを嗅いでみたそこに鉄やゴムの混ざった香りがする。とても臭いがそれ以外は分からなかった。
「臭いな」
「臭いですね、鉄とゴムが」
「いや、これとは別でさ」
「え」
「生臭い匂いがするだろ」
「え」
私はもう一度鼻を凝らしてみた。鉄クズやゴムの間から生臭い臭いが間から臭って来た。何の匂いだろうか分からない。嗅いだことは無いが記憶の中だと生ゴミに近い。
「これ」
そこに居た皆が口に出さなかったが考えた事は同じだろう。
そう。きっとこの中に人がいる。私たちは無言のままその鉄と鉄を剥がすことにした。
皆が想像した通りその中からは潰れた子供の死体が出てきた。
きっと警察も気づけなかったからこうしてこの子は私たちに伝えたのだろう。