「お忙しいところ申し訳ありません。NE部1課の小野田ですが…
先程お願いしました件、何か分かりましたでしょうか?」と、千夏は話をした。
だが、副社長からは思わぬ応えが返って来た。

『ホント僕も忙しいんだよね?
一応副社長なんてやってるもんだからね?』と受話器からは、笑いを含みながらも嫌味混じりに応える副社長の声に、千夏は直ぐに頭を抱えた。

(あっ、やってしまった…
私、勢いのまま副社長にまで指示しちゃったんだった…
パニクってたからなんて、理由になんないよね…)

「すいません!
本当に申し訳ありませんでした。イッ(ターィ)」


咄嗟に謝らなくてはと思った千夏は、椅子から立ち上がると勢いよく頭を下げた為、デスクの角で額を打ってしまった。
なんとか痛みを堪え左手で額を摩り辺りを見渡すと、伊藤美咲を始めとするスタッフが、クスクスと笑っていた。


(ひと)が痛い思いしてるのに、心配するどころか笑ってるなんて、なんて酷い職場だ!)

「っあ」(んた達、覚えておきなさい!)

『何か言ったかな?』

「いえ、なにも…」

『兎に角、直ぐに私の部屋まで来てくれるかな?』

(やばい…
琢兄達に仕事辞めないって言ったばかりなのに、退職願いを出すまえに解雇になっちゃうかも…?)

「あの…副社長…先ほどの事は…」

『エレベーターのカードキーは、木ノ下君のデスクの上の引き出しの奥に入ってるらしいから、それを使って直ぐに来る様に!
いいね?』

(これはマジでヤバイかも…
副社長が言う木ノ下君って言うのは、社長の事で…
だから…木ノ下君のデスクって事は…社長のデスクって事で…
でも、社長のデスクは社長室で…
だからここにあるのはチーフのデスクで…
でもチーフは社長で…
社長の本当のデスクはここに無いわけで…
あーもう訳わかんない!
兎に角、チーフのデスクのカードキー使って急いで来い!って事なんでしょ?
はい、行きますとも!ダカラ…クビニシナイデ…)