フワッとフローラルの香りが鼻をかすめる。

顔があげられなくて、エレベーターのボタンを見つめることしかできない。

私が押した5階のボタン以外に6階のボタンが光る。きっと、乗ってきた人が押したのだろう。

匂いでわかってしまうなんて最悪だ。

顔を見なくても、今、同じ空間にいるのが誰なのかわかってしまった。

こんなことになるなら階段で行けばよかったよ。

いや、お昼からずっと立ちっぱなしだった私にとって5階まで階段で上るのはあまりにもキツすぎる。

なんでわざわざこんな疲れてる時に一緒なのよ……。

まって、私、汗臭くないかな?バイト終わりだし、エレベーターって密室だし。

って……。
べつにこいつにどう思われようが関係ないじゃん。臭いとかキモいもか思われててもどうでもいいって。

私だって、なんとも思ってないし。
ってかキライだし!

ガタンッッッッ

「っ?!」

突然、大きな音と振動が私の身体をふらつかせた。

な、なに?!?!