始業式と着任式と入学式は、切れ目なくおこなわれた。いかんせん、学校の規模がミニマムだもの。全校児童三十人。各学年の人数は一桁。もしくは、二学年合同の「複式」ってスタイルで、一桁。

 離島の感覚って、すさまじい。「各学年」っていう言い方ができる学校は、まだそこまでミニマムとも呼べないらしい。二学年以上をまとめて一クラスにするスタイル、かなり多いんだそうだ。

 着任式での挨拶は、全っ然、緊張しなかった。引っ越しやら鉄棒やら何やらで、すでに全校児童みんなと顔を合わせてるし。

 教室に入って、長めの学活。自己紹介をして、真新しい教科書を配って、余った時間は雑談をした。

 一日は、あっという間に過ぎた。

 子どもたちを帰した後、職員室に向かおうとしたとき、たまたま、マツモト先生と合流してしまった。さっきまでスーツだったはずが、すでにジャージ姿。

 この人、隣のクラスの担任なのだ。隣の学年というか。まあ、どっちにしろ、隣の教室。

 軽く会釈して、先に階段を駆け下りようとしたら、「タカハシ先生」と呼び止められる。めんどくさっ。

「はい、何でしょう?」
「魚、さばききらんとですか?」
「えっ?」

 いきなり何よ? なんでアナタが知ってるんですか?

「教えましょうか、魚のさばき方」
「はぁっ?」

 あたしは最早、力いっぱいマツモト先生をにらみつけている。マツモト先生はビビってる様子なし。

「うちの母が、パッチワーク教室で、校長先生の奥さんから聞いてきたとです」

 あーなるほどね。島育ちのマツモト先生はものすごく上手に魚をさばくって話。昨日、校長先生の奥さんがおっしゃってたわ。

 だけど、それにしても、話が伝わるのが早すぎる。そのパッチワーク教室とやらに参加してた女性みんなに、広まっちゃってるの? あたしが魚をさばけないってこと。

 やだぁ……イナカって怖い……。

 でも、当座は、とりあえず。

「マツモト先生はお気になさらず。校長先生の奥さんがお料理を教えてくださるそうですから」

 あたしは、引きつった笑顔で、マツモト先生の申し出をぶった切ってやった。