「正直、俺じゃなくてよかったと思ってる」


青年は唇を震わせながらそう言った。


無理もない。


殺されるのは彼かもしれなかったのだから。


「でも、お前と話すのは楽しかった。もう話せなくなるんだと思うと、それにほっとしてる自分がどうしようもなく憎くなる」


彼の視線は地面に落ちる。


僕たちはいつもノート越しに話していたから、彼とこうやって向かい合って話をするのは初めてだった。


奇妙な関係だった。


でも僕たちはその距離感でよかった。


心地いいとさえ思った。


僕と彼の間に言葉なんていらないのだ。


「俺もいずれ“そっち側”にいくんだろうな」


彼はこれから僕を殺すにしてはあまりにも穏やかな声で呟いた。


その声は、涙に濡れていた。


彼が死にゆく僕を想って涙を流してくれるのか、はたまたいつか訪れる死を恐れているのか、僕には分からない。


それでも彼は、最後の日まで僕の遺志を胸に生きようと約束してくれた。


青年は瞳を閉じて、大きく息を吐いた。


次に目を開けた彼は、とても優しい表情をしていた。


「また会おう、同志よ」


彼の足が僕に向かう。


思い残すことは、もう何も無かった。