少女は微かな笑みを浮かべていた。


笑いながら僕をただ見つめていた。


「私、あなたが嫌いよ」


少女は清々しいくらいにそう言った。


僕はそれを悲しいとも思わなかったし、死ぬ間際に僕を嘲る少女を怖いと思うような感情も持ち合わせてはいなかった。


僕の中にあるのはただ少しの切なさと、ほんの小さなの寂しさだけだった。


思えば、彼女とは誰よりも長い時間を過ごしてきた。


彼女が泣けば、僕の頬を涙が伝った。


彼女が笑えば、僕の心は晴れ渡った空のように澄みきり、


彼女が腹を立てれば、僕は地団駄を踏んだ。


僕たちはいつだって一緒にいたんだ。


だから、彼女がその大きな瞳に浮かべる涙の影を見れば、彼女の本心がどこにあるのかなんてすぐにわかった。


パタ、と雫が地面で弾ける。


「だから先に逝ってて。私も必ず逝くから」


少女は言う。


いつか、こんな日が来ると思っていた。


彼女と出会った日から、僕らが共に過ごせる時間はそう長くはないのだと。


彼女は僕を殺さなければならない。


それが彼女の生きる道であるからだ。


少女が僕に手を伸ばした。


その泣き顔でさえ、僕は美しいと思った。