ケータイ小説 野いちご

不機嫌なカルテットは狂奏曲を奏でる。

紫藤ファミリー




『幸せ』と言うものを考えてみる。


それは当たり前のように溢れているのに、


でも僕たち人間は、意外とそれに気付かないまま日々を過ごしている。


当たり前に感じ過ぎていて、『平穏』と言うのがいかに幸福であるか


気付かないでいるのだ。






例えば―――


「当店“Fine(フィーネ)”の今月の売上高、純利益高第一位は





紫藤 響(しとう ひびき)





パチパチパチ…


フロアに集められたスタッフたちが拍手を起こし、照れくさい様子を装って、わざとらしくない程度で僕は小さく頭を下げた。


僕の勤めるのは東京郊外にある小さなアンティークショップ。


と言っても、扱っているものは家具や調度品よりも楽器がメインだ。


年代物のピアノやヴァイオリン、その他もろもろ。


もはや楽器として用をなさない、僕から言わせてもらうと「誰が使うんだ、こんなもの」とガラクタ扱いでも、驚くほどの高値で売れる。


「ありがとうございます。手助けしてくださった皆様のお陰です」


毎月、月末の締め日に発表される成績が好調であっても、お決まりの台詞で用意してきたかのような笑顔を張り付けて。


僕がこの店に就職したのは、アンティークが好きとか楽器が好き…とかそんな理由じゃない。




単に離れられないだけだ。




家を出ても、捨てても尚もつきまとってくる影―――





この体に流れる“紫藤”の血から―――








それとも少しでも“音楽”と関わっていると、


またどこかで“彼女”と繋がっていられると思っているのだろうか―――







捨てたのは、“紫藤”と言う名前か




それとも





あの狂おしいほどの―――感情なのだろうか





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