その日、俺は仕事を終えて帰宅している最中だった。

森次さんから電話がかかってくることは滅多にない。不思議に思って出れば、震える声で『誰かにあとをつけられている』と言うではないか。

いてもたってもいられなくなり、幸い車に乗っていたため、すぐさま彼女のアパートのほうへ向かった。

コンビニに着いたとき、不審者は姿を消したあとだったが、森次さんは青ざめた顔をして震えている。

彼女に恐怖を与えた男への憤りが込み上げるも、それより少しでも怖さを和らげてあげたくて、その弱々しい身体を抱きしめた。

背中に遠慮がちな手が回されると、なぜか俺まで安心して。彼女を守りたいという気持ちが大きく膨らんでいき、同居話を持ちかけたのだった。


とはいえ、森次さんは簡単に受け入れてはくれない。

同居話を出された彼女は、真顔でしばし思案したあと、『無理!』と口にした。はっきり拒絶されると結構なショックで、一瞬あからさまに不機嫌な顔をしてしまった。

しかし、逃げられると追いたくなり、反抗されると手懐けたくなるのが俺の性分でもある。

彼女の今後が心配な気持ちも相まって、なんとか説得を成功させたが、そのあとマンションに連れてきてからもひと悶着あったのだ。