これは決してノロケではない。

けれど、今恋人として隣にいる彼は、私の理想すべてを兼ね備えた最高の男性だ。

毎日オフィスできびきびと仕事をしている姿はカッコよく、高級フレンチレストランで女性をエスコートするスマートな姿も素敵すぎる。

ただいま私が目の当たりにしているのは後者で、席に案内されるときもレディーファーストを忘れず、そっと背中に手を当てて先に促してくれる。

三月中旬でまだ肌寒い今日、私が着ていたトレンチコートをクロークに預けるため、私の後ろに回って脱ぐのを手伝ってくれたのもドキドキだった。

ただ、今夜のディナーはふたりきりではない。並んで席についた私たちの向かい側に座るのは、そわそわとした様子の私の母だ。

彼は魅惑的な笑みを浮かべ、母に改めて綺麗な一礼をする。


花乃(はなの)さんとお付き合いをさせていただいております、桐原(きりはら) 生巳(いくみ)と申します」


……まさか、こんなことになるとは夢にも思わなかった。

憧れでしかなかった桐原専務が、私の母に挨拶をすることになるなんて。