本家の離れ。志勇が幼少時代から過ごしていた平屋を、生活の拠点して使っている。


そこでいつもわたし達は、何をするでなく、他愛もない話をしながら、止まっていた時間の分だけ体を寄せ合う。


東京に帰って1週間が経っていた。


今日もそうして暖かい部屋でひっついて、ソファでくつろいでいる。



「前、住んでたマンション……そういえば、どうなったの?」



ふと思い出して気になって訊ねると、わたしを抱き寄せて目を伏せていた志勇は、頭の上からボソボソと教えてくれた。




「サツにガサ入れられて、色々と押収されて面倒だった。
押収された物はだいたい返ってきたが、気持ち悪いから全部捨てた。
盗聴器とか仕込まれてたらたまったもんじゃねえ」

「家宅捜索されたってこと?」

「そうだ、それで俺があのマンションに住んでるって情報が流出して……一時マスコミがたかるように集まってた。
もうあの場所には帰れない」

「……そうだったんだ」

「本家にこのまま留まるのは嫌か?なら別の住居を探しても……」

「ううん、ここは好き。だけどあのマンションのあの部屋には、たくさんの思い出が詰まってたなぁって」

「……」

「あんなに缶詰になって勉強したのに、決局今年の入試は受けられなかったし」

「……悪ぃな」

「ん?こればっかりはわたしの運だよ。
でも、勉強不足だなって感じてたから実は安心してる」



ちょっと愚痴を言うと、珍しく謝ってきた志勇。


だけど別に志勇のせいじゃない。わたしは気にしてないことを示すため立ち上がり拳を固めた。



「よし、これからは本家に住み込みで働きながら勉強して、夏が過ぎたらガッツリ勉強に専念しよう!頑張れそうな気がしてきた!」



と元気に決意表明をしたのに、見ていた志勇はこれでもかってくらい嫌そうな顔を歪めた。



「……お前、今年も働くのか?」

「……へ?」