襖の影からふいに、声をかける。



「あ、総司さん?」



そしてたった今現れたように、ひょこっと彼の前に姿を見せた。


10人ほどの男が実莉を見て眉をひそめる。


だけどそんな男達には興味がないの。


見てほしい男はたったひとりだけ。


すると床に目を伏せていた魔王が、愛しい若頭が───ゆっくりと実莉を視界に入れる。




「会議中ごめんなさい。少し気になることがあって」

「……失せろ、クソガキ」




悠長に、それでいて殺気を漂わせて忠告する彼。


普段見慣れているはずのこの実莉でも、ごくりと唾を飲み込んだ。


殺されるかもしれない。心臓を鷲掴みにされた気分だった。



「佐々木が見当たらないといっても?」



だけどここで引いてしまったり、怯えてしまってはここに並ぶ能無しといっしょ。



「壱華を捕らえに向かった警察側の責任者が、行方を眩ませたらしいんだけど」



実莉は違うと、見せつけておかなくちゃ総司さんの視界に入ることができない。


だから慎重に言葉を選ぶ。多弁はしない。


彼にとって有益な情報を流すことで、使える女だと彼の傍に置いてもらうようにしなきゃ。



「可能性は、あると思いませんかぁ?」

「……調べだせ。所在が分かり次第あの男と、相川壱華を殺せ」



総司さんがすぐさま命令を出し、男たちは慌てふためいて動き始める。


命令を与えた魔王の目は龍のごとき邪悪な眼。


ああ、その瞳、ゾクゾクしちゃう。もっともっとその冷たい目で見てほしい。


見てなさい壱華。こうやって実莉は帝王より強い男の隣に立ってみせる。



そうして出来損ないのシンデレラの心を、今度こそ立ち直れないように折ってあげる。


壱華、あんたなんて大嫌いよ。


実莉より幸せになるだなんて、絶対許さないから。