「少し待っとけ。こいつら全員シメるのが先だ」

「そんなことしなくていいから……早く」



ところが志勇は物騒なことを言って進んでくれない。


突然止まるから、並んでいる組員たちはどうしたんだとざわつき出したし。



「何をチラチラ見てんだ。気になる男でも見つけたか。俺の存在を差し置いてよくそんなことができるな」

「違う、そんなことしてない。志勇のことしか考えてないからっ」



ついにはあり得ないことを抜かす志勇に、自ら赤面レベルのセリフを言ってしまう始末。



「ふん、そうか。ククッ……」



でも、その恥ずかしい発言が逆によかったようで。


瞬く間にご機嫌になった志勇は独特の笑い方を披露した。





「なっ、まじかよ!」

「あの人が……嘘だろ?」

「人前で笑うなんて……あり得ねえ!」



そしてざわつきは最高潮に。


みんなが目を丸くして志勇を凝視している。


……そんなに志勇って無表情なイメージだっけ。


わたしよりは表情豊かな人だと思うけど。




と、びっくりした顔の組員たちを見ていた時、知り合いがいることに気がついた。


力さんがいる。


いつもお出かけの際に護衛についてくれる人がいた。


見たところ、彼は本家勤めらしい。


だけど服装が不思議で、料亭にいる板前さんのような格好をしている。


もしかすると、彼は本家の厨房で働いているの?


力さんって、あんな恵まれた体格で厨房に入ってるんだ。これはびっくり。



「コラ、俺のことだけ考えてるんじゃねえのか?
早速浮気か。どいつだ、どいつに脈があんだ。言ってみろ」



新たな発見に感動していたら、さっきのデジャヴだ。


もう、この嫉妬深い狼はどう扱えばいいんだか。