睦月君は、その子猫の頭を撫でてあげていた。
すると「ニャー」と鳴いている。
メロメロになるぐらいに可愛らしい。
すると睦月君は、子猫を抱き上げ立ち上がった。
えっ……?

「睦月君。どうしたの?」

「……連れて帰る」

睦月君は、そう言ってきた。えぇっ!?
いやいや。いくら可愛くても先生の許可無しで
持って帰る訳にはいかない。
下手したら怒られてしまう。私は、慌てて言い聞かした。

「睦月君。持って帰りたい気持ちは、分かるけど
パパにお願いしてからではないと怒られちゃうよ?」

しかし、ギュッと子猫を抱き締めたまま
離そうとしない。これだと帰れないし……。
困っていると雨が強くなってきた。弱った。
このままだと私達まで風邪をひいちゃうわ。
すると睦月君が「……寒い?」と子猫に聞いていた。

私も子猫を覗き込むと
小さな身体をガタガタと震わしていた。
怖いってより寒そうだ。ずぶ濡れだし
可哀想……こんな小さな身体で長時間置いていたら
凍死しちゃうわ。
それだと捨てた人と同じになってしまう。

でも、先生が許してくれるとは、思えないし…。
どうしよう!?
すると睦月君は、手提げカバンに
子猫を詰め込みだした。えっ?ちょっと!?

「睦月君。ダメよ!そんな事したら」

慌てて止めようとした。
しかし睦月君は、首を横に振るう。
スポッと中に入れると何事も無かったように
右手を出してきた。
手を繋いで帰ろうと合図をしてきた。
いや……しかし。

手提げカバンから子猫の鳴き声がする。
これは、叱ってでも
置いて行くべきなのかも知れない。
だが身体を震わしている子猫が頭の中で思い浮かぶ。
捨てるなんて……出来ない。

「拾ったではないわ。たまたま
睦月君のカバンの中に入ってしまったのよ」

無理やりな言い訳を考える。そして
マンションの中まで連れて来てしまった。
バレませんよーに。
とりあえず睦月君の部屋に隠そう。

食べ物は、後でこっそり持って来て
食べさせればいいわよね。
エレベーターで上がり部屋まで行くと先生が
ドアを開けて待っていてくれた。
すると睦月君は、私の手を離して先生の所に
駆け寄って行く。あんまり振ると子猫が目を回すわよ!?
いつものように先生に抱っこしてもらう。

「お帰り」

先生がそう言った瞬間
「ニャー」と子猫が鳴いてしまった。