その日の夕飯は人生で一番息苦しい晩餐だった。
志信さんと信士くんは離れから廊下を隔てた客間に逗留することとなり、夕食までの間に近くに待機していたトラックから荷物がどんどん運ばれてきた。

「お夕食はこちらでとのことです」

甲本さんが整えた膳は三人分。お義父さんの指示通り、志信さんと信士くんは離れのダイニングで夕食を摂ることになったのだ。

「残さず食べなさい」

志信さんは私たちの生活スペースに入ってきたという遠慮はゼロで、信士くんの食事マナーを注意しつつご自分の食事もすいすい進める。私はまったく食欲が湧かず、好きな肉じゃががおかずなのにのろのろと箸を口に運んでいる。

何も喋らないのはおかしい。何か言わなきゃ。
そう思っていると志信さんが口を開いた。

「幾子さんっておいくつ?」
「二十歳です」
「まあ、まだそんなにお嬢さんなの?可哀想に、こんな成金の家に嫁がされて。やりたいこともあったでしょう?」

その言葉が私の人生を本当に慮ったものなのか、百パーセントの嫌味なのかわからない。喧嘩腰になるのもいけない。私は曖昧に笑い、「いえいえ」なんて口の中で呟くのだ。

「幾子さんのことは早く解放してあげなきゃねえ。私も三実と話すわ」
「解放?」

あまり耳ざわりの良くない言葉に眉をひそめてしまう。志信さんは目を細め、微笑んだ。

「すごく若いんだもの。親同士の決めた婚姻関係がなくなったら、もっと自由に生きられるんじゃないかしら」

なんだか、すごく勝手なことを言われてる気がする。私のことを息子さんと同じくらいの年齢に思っているのか、本気で喧嘩を売りにきているのかわからない。