「ごほっゴホッ!」
マスク姿で助手席に座る先輩の方をちらりと見る。

朝からかなり咳がひどい心平先輩。不幸中の幸いで今日は金曜日。
週の半ばから咳が出始めた先輩の声は木曜にはかなりかすれていた。
咳が出始めると止まらなくなる先輩にかわり私はある程度の知識を使って営業中は先輩が話さなくてもいいようにしていた。

「熱、無いんですか?」
「わからん。体温計ない。」
私の心配をよそに先輩は仕事を休もうとはしない。

夏の終わり。最近は夕方になると冷えてくる。
季節の変わり目に体を冷やしたのだろうか。先輩は風邪をひいてしまったらしい。

今日の仕事もあと数時間で終わる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない。でも大丈夫だ。」
そう言っている先輩。でもかなり無理をしているのはわかる。