敵の剣が頬をかすり、顔の曲線を沿って血が流れ落ちる。


今にも地面に崩れ落ちそうな程の疲労感が身体を襲うけれど、剣を握り直して、幾度も敵へ振りかざす。

しかし、何人討てど何千もの敵が減る事はない。


「……王女様!!」 


思わず膝を地面へ着くと、それを目にした仲間が心配そうな声を上げる。


「大丈夫。けど、こちらも長くは持たないでしょう…」


王城を死守せんとしていた誇りある騎士の大半は、この戦争で皆死んだ。


王である父も敵から討たれ、確かにその首をこの目にした。


けれど、この戦争は終わらない。


王を討っても尚、この国を滅ぼすまで敵は止める気などない。


(せめて味方が…………いや、あの者がここへ戻って来ればこの戦況が変わるのに)


片腕と信頼する"あの"騎士は、必ず民を護り、そしてその場を勝利に収めた後、こちらへ救援に来るだろう。


しかし、それでは遅い。


このまま"普通"に戦い続けていては______。


「デュサ!!」
「ギュルル…ッ!」


デュサと呼ばれた立派で雄々しいドラゴンは背中の鱗を光らせながらドスン…ッと目の前に降り立つ。


「わたくしが力尽きるまで………暴れ続けなさい」


デュサの目を力強く見つめる。


「…ギュルルル!!!!」


羽を広げた勢いで突風がその場に吹き、後ろで一つ結びにした赤い髪が激しく揺れる。