先輩を慕っていた時もあった。結婚してカリスマを引退される事を寂しく思った。それに、私には先輩の望む庭付き一戸建ての家は建てられない。

そんな低賃金だから私は田舎から上京した高校生の女子とルームシェアしてた。
だが、彼女は引きこもっていた。折角上京してでも通いたかった学校なのでは、と問い正したが「誰にも知られずに生きたかっただけ」だからと言われたので、彼女を不快に思った。

その時はきた。洗面所で彼女は顔の産毛を剃っていた。体にぶつかると綺麗な傷が横一文字についた。流れる血を止めようとした彼女は私に膝裏を蹴られ転んだ。「ごめんね」という私は美しい朱色に胸の高鳴りを感じた。彼女はふらつきながら傷口を消毒して、絆創膏を貼った。傷口が塞がっても、あの傷ではみみず腫の痕が残るだろう。それが、なんて綺麗な傷痕なんだと私は思った。

出血の止まった彼女は美しいみみず腫の傷痕を隠すことを諦め、空気に晒していた。

傷痕のある少女は美しく見えた。もし私に振り向きもしなかった先輩にも、同じ傷痕があったなら。私の嗜虐性にスイッチがはいった。まだだ。まだ。まだ足りない。私は少女に「引きこもっていたいのなら」wrist カットをしなよ。「全身に」と奨めた。
「気持ち悪い」って、彼女は走ってマンションのドアから逃げ出した。でもあてのない彼女だから、交番にでもゆくかなとふんでいたら、夕方に彼女が帰ってきた。茜色の太陽が染みた空を背景に。私は「交番に行けば」と素っ気なくあしらった。彼女は実家に帰りたくない。地元くらしなんてやだと我が儘。私はじゃあ体に傷痕をつけなよと想いを発した。

そして私を捨てた先輩になら、もっともっと、身体中、隙間がないくらいのみみず腫の傷痕が似合うと夢想しながら、彼女が手首に軽く刃をあてるのを幸せそうに見てた。

いつか全身、くまなくみみず腫の傷痕だらけ(なんて美しい)の彼女は私を牢獄にぶちこむだろうと想いながら。