赤子の頃の話を孤児院の院長はよく話してくれた
桜の木下に君は泣かずに居たんだよと
私は切なくて悔しかったけど涙は見せなかった
自分が負けた様な気がしたから
私は院長の趣味で格闘技,武道を学んだ
そんな私は人と違う
左右の瞳が赤と青
地毛が銀髪
人は人と違うだけで差別をする
私は赤子の頃から話さない
いや、話せない
何故なら
失声症だからだ
悲しみも弱音も吐き出せない
ならせめて学べるものは学ぼう
そう決めたのだ
今、私は十歳
そろそろ孤児院から離れる時期
そんな私に院長が声を掛けた
(ー?)
ペタペタと院長の方へ歩いて行くと着物を身に付けた女の人なのか男の人なのか分からない人が座っている
院長を見た
「座りなさい」
「ー…」
コクリと頷き座る
私の前にノートとペンが出された
(いつも私が使っているやつだ…)
「使っている物で合っているかしら?」
私は顔を上げる
声の主は着物の人
「院長さん,私この子と話をしたいわ」
「じゃあ私は出ますね」
「えぇ」
パタンと扉が閉まる
私はじっと着物の人を見つめた
(この人,何者?)
「私は江川玲華よ」
(江川玲華さん…)
私はペンを持ち玲華さんに見せる
ー私は湊です
「湊ちゃん,可愛い名前ね」
(可愛い?)
ー何故?
ノートを見せると玲華さんはキョトンとした
「可愛いから可愛いのよ!」
(そうなのか…)
ーありがとうございます
ペコリと一礼する
玲華さんは私の頭をいきなり撫でた
それこそ分からないけど
(温かい)
そう感じた
「これを見て欲しいの」
着物を脱ぎ出した玲華さん
私は恐れることなく見つめる
玲華さんの背中には蛇と龍の入れ墨が彫られていた
(特に変ではないし,むしろー)
ペンを走らせる
ー綺麗ですね
玲華さんは目を見開いた
(そんなにびっくりしますかね‥)
「私,極道の若頭なのよ‥」
(大変ですね…)
ーそれが何ですか?貴方は怖くない
私の言葉に玲華さんは微笑んだ
「私の娘になってくれるかしら?」
「ー!」
(私で良いの?)
ー私で良いのですか?
私は不安だった
捨てられるのも
一人になるのも
玲華さんは私の字を見て
「貴方だから良いのよ,湊ちゃん」
そう言って私の両手をそっと包む玲華さん
私は頷き涙を流した
玲華さんは私を抱き締めてくれる
その時
優しい花の匂いがした