ラグの青い双眸が大きく見開かれるのを見て、私は背を向けそのまま書庫を飛び出した。


 ――無性に腹立たしかった。

 今までも言われてきた言葉なのに、今までとは全然違った意味に聞こえた。
 ぐるぐると螺旋階段を駆け下りながら胸中で独り言ちる。

(利害が一致してるから一緒にいる……? 違う)

 少し寂しい関係だけれど、仕方がないと思っていた。
 それでもこの世界でいつも一緒に居てくれることに感謝していた。嬉しかった……。

 でも、気が付いてしまった。

(ラグにとって私は、あの笛と同じ、呪いを解く道具なんだ)

 無く(居なく)なったら困る。だから探してくれる。
 壊れて(死んで)しまっては困る。だから護ってくれる。

 でも。

(……だから、呪いが解けてしまえばもう必要が無くなる)

 要らないモノになる。
 今になって、そのことに気が付いてしまった。

 ――オレから離れるな。

 彼の口から出た、らしくないあの台詞も今ならわかる。

「本当に、そのまんまの意味だ」

 最後の一段を下りて、呟く。同時に乾いた笑みが漏れていた。
 言われたことのない気障な台詞に動揺したりして……馬鹿みたいだ。

 いつの間にか滲んでいた涙に気が付いて、それがまた悔しくて、早く引っ込むように強く擦る。

「カノン」

 その声に驚き振り返ると階段上にセリーンがいた。追ってきてくれたのだ。
 気遣わしげなその表情に、私はなんとか笑みを返す。

「ごめんね、急に大きな声出して。ついイラっと来ちゃって。いつものことなのにね」

 下りてくるセリーンを見上げながらハハハと苦笑する。