「ここだ」

 ツェリウス王子がそう言って立ち止まったのは、再び一階に下り中庭の見える回廊を進んだ先の曲がり角。円柱形の出っ張り部分にその扉はあった。

(ここって、あの高い塔にあたる部分?)

 位置的におそらく間違いないだろう。
 その扉は王の寝室のものと比べると飾り気が無くとてもシンプルだった。

「ここが王族しか入れないっていう?」

 アルさんが訊くと王子は首を振った。

「ここは誰でも入れる。王族しか入れないのはこの中の一部分だ。クラヴィスはここで見張っていろ。誰も入れるなよ」
「はっ」

 クラヴィスさんはもう止めることはなかった。
 王子が扉を押し開けた途端、古い本独特の少し埃っぽい香りが鼻を掠めた。そして。

「わー!」
「すっげー!」

 私とアルさんの声が塔の中に綺麗に反響した。

 お城の中に入ってから何度もこうした声を出している気がするけれど、ここはまた別格だ。
 その円柱形の壁面は全て本棚になっていて、360度見回す限りぎっしりと書物が詰まっていた。

 更に驚くべきは中央の昇り階段。それは円を描き螺旋階段となって塔のてっぺんまで続いていた。
 その螺旋の中心を見上げていると、まるでその穴に吸い込まれ落ちてしまうような可笑しな錯覚に陥る。

 日本に良くある普通の図書館を想像していた私は、その美しさと本の数にただただ圧倒されてしまった。