「知らねーって、お前な」

 アルさんの声にわずかに怒気がこもる。
 ラグは誰を見るでもなく続ける。

「言ってんだろ。オレの目的はこの呪いを解くこと、それだけだ。この旅も、そいつと居るのも、全部その目的あってのことだ」

 いつもと変わらない不機嫌な口調。

 ――そう。彼は最初からそう言っていた。出逢った時からずっと。
 だから今更、何もおかしいことはない。
 最初からわかっていたことだ。……なのに。

(なんで私、こんなにショック受けてるんだろう)

 膝の上で小さく震えている両手に気付いてぎゅっと握る。

「じゃあなにか? ここで呪いが解けちまったら、カノンちゃんはもう用無しってことか?」
「そうなるな」
「お前なぁっ!」
「アルさん!」

 名を呼ぶと、立ち上がりかけていた彼はびっくりした顔でこちらを見た。
 私は笑顔で言う。――引きつってしまわないよう、平静を装って。

「わかっているんで、大丈夫です」
「カノンちゃん?」

 気遣うようなアルさんの声。

「ラグの言う通り、呪いが解ければ私と居る理由は無いですし、そりゃ居てくれたら何かと心強いですけど、そこまではお願いできないっていうか」
「いや、でもよ、」
「逆だったらどうするんだ?」
「え?」

 窓際にいるセリーンが、冷え冷えとした視線をラグに送っていた。
 ラグが睨むようにそちらを見る。

「もし貴様の求める情報は手に入らず、カノンが元の世界に帰る方法が見つかったらどうするのかと訊いている」