先ほどまでの楽しげな雰囲気から一転、広場は緊迫した空気に包まれた。

「屋根からって……」

 周囲の建物の屋根を見上げて思わず青ざめる。
 少なくともここから見える建物のほとんどが2、3階建て。あの高さから落ちたのなら軽傷では済まないだろう。運が悪ければ……。

「誰か助けてくれー!」

 叫び声はどんどん切羽詰ったものになっていく。だが名乗り出る者はいない。

「なんだ。この街には医者がいないのか?」

 セリーンが眉を顰め街の人々を見回す。
 確かにこれだけ人の多い栄えた街にお医者さんが一人もいないというのはおかしい。と。

「この辺りの医者は皆宮殿に呼ばれちまってるって話は本当だったみたいだね」

 半ば呆れたふうに言ったのは先ほどの踊り子の女性だった。

「そんな……」
「そうだ」

 思いついたように声を上げたのはセリーン。
 その視線をラグに向け彼女は平然と言った。

「丁度良いではないか。貴様が医者になればいい」
「は?」

 ラグが眉を寄せた直後、セリーンは男に向け大きく手を振った。

「医者ならここにいるぞー!」
「おい」

 ラグが焦るように声を上げるが時すでに遅く、セリーンの声に気づいた男はすぐにこちらに駆け寄ってきた。

「あんたか!? 良かった、すまないがすぐに来てくれ! こっちだ」
「いや、オレは、」

 30代程の中肉中背の男性はおそらくは違うと否定しかけたラグの腕を強引に掴み、物凄い勢いで引っ張っていってしまった。

(まだ服着替えてないのに……)

 そんなことを思いながら呆然とその背中を見送っていると、

「ほら。私たちも行くぞ」

セリーンは何とも満足げな顔で私の肩に手を置いたのだった。