『めるもサーフィンやったら?』
海から上がってきたはやとは言った。
高校1年の時からずっと親友だった私たちは、もうかれこれ3年の付き合いになる。
私たちはお互いの毎日を共有し合い、共に泣き、共に笑い、お互いの良いところも悪いところも全て知り尽くしている。
はやとは私にならなんだって相談できると言ってくれるし、私だってそうだ。
ただ一つ私がはやとに打ち明けられていないのは、私ははやとが好きだって気持ちだけ。
はやとを好きになったのはもうずっと前の事で、私ははやとだけをずっと見てきたけど、それは絶対に言えないこと。
だって恥ずかしいし、この関係が崩れるのも嫌だし。
だから私は自分の気持ちをそっと仕舞って、今日もはやとの隣で笑う。
はやとはサーフィンが好きで、毎年夏になると地元の海に行って一日中サーフィンをする。
私はそんなはやとに着いて行って、浜辺ではやとを見る。
私たち2人の、夏の恒例だ。
はやとに出会って3回目の夏。
今年の夏もいつも通り、はやとと海に行いくのだ。

海に着くと、はやとはTシャツを脱いですぐに海に入る。
ここから数時間は、私だけのはやとの時間。
浜辺から眺めるはやとの姿は、いつもよりもっともっとかっこいい。
いつもかっこよすぎて眩しいんだけど、それよりもっともっとね。
波に乗ったり、飲まれたり。
たまに心配になるくらい大きな波に呑まれて姿が見えなくなって、うそっそんな…って思うけど、次の瞬間ちゃんと顔出してくれるから、ホッとする。
しばらくした後、はやとはサーフボードを持って上がってきた。
相変わらず猫っ毛の、少し伸びた前髪をかき上げながら近づいて来るはやとがあんまり眩しくて、思わず目を細めている私に、はやとは笑いながら言う。
『ほんと、毎日ただ眺めるだけで飽きないんだな〜。そんなにサーフィン好きなら、めるも始めたら?』
『違う、違うの、私が好きなのはサーフィンじゃなくて、サーフィンをしてるはやとなんだよ。』
そんな言葉が喉まで出かける。
『ううん。私は見てるのが好きだから(笑)』
咄嗟に答えた。本音が出なくてよかった〜。
『ふーん、そっかぁ。やっぱりお前、変わってるな(笑)』
そう言って笑うはやとを見て、やっぱり好きだな〜。。。って思っちゃう私。
その後何かを思い出したかのようにふとはやとは真顔に戻り、海を見つめた。
その目、その横顔。はやとが何を考えてるのかなんてすぐ分かった。
『まーた愛華のこと?(笑)あの子、やっぱり竹田と付き合ってるんだってね〜…』
私は茶化すようにはやとに言った。
『うん………。でも俺バカだからさ、好きな人に好きな人がいるって分かってても、諦めきれねーんだよな〜(笑)』
あぁ………。その顔。その笑顔。
私が大好きなその笑顔は、あの子の事を想ってする顔なんだね。
私はただ黙るしかなくて、下を向く。
『あっそうだ、める、高校卒業したらどうすんの?』
はやとは何かを察して、空気を変えようと明るく聞いてきた。
『私は今願書出してる音大に受かったら、そこに行くよ。』
『そっかぁ〜。める、ピアノ上手だもんなぁ。やっぱすげーよ、お前って。』
私の目をまっすぐ見て、くしゃっと笑う。
普通なら照れちゃうような事も、まっすぐ言ってくれる。
私ははやとのそのまっすぐな性格が大好きなんだ。
『そんなことないよ(笑)。はやとはどうするんだっけ?』
『俺?俺は………そうだなぁ。親父の店手伝いながら、サーフィン続けるよ。』
『そっか。お父さんの自動車会社手伝うんだね。はやとにそんなことできるのー??(笑)』
『失礼だなー!俺にだってできるよ!メーターだっけ?ドーラーだっけ?あれ?(笑)』
『ディーラーでしょ?(笑)もー、ほんとに大丈夫なのー?(笑)』
『そうそう、ディーラー!(笑)大丈夫だって!俺もいつか立派な男になって、親父を支えられるようになる!』
『そっかー、今は頼りないけど頑張ってね!(笑)』
『一言余計だけど、任せろ!(笑)』
大人の男になったはやとの隣にいるのは、私が良いな…。
そんなこと、今は胸にそっと仕舞って、はやとの隣に居よう。