電車での空気は最悪だった。
氷野は黙り込んだままで、俺も一切口を開かない。

一緒に帰る意味があるのかと思うほどふたりは話さなかった。


それでも降りる駅に着いて欲しくないと心の中で繰り返す。

予測不能は氷野の言動、行動に俺はすでに惑わされていた。


心の中では何度もため息を吐きつつ、着いてしまった最寄り駅。

諦めて氷野とふたり、そこで降りる。


「ねぇ」
「……どうした?」

「話、聞いてくれるの?」


真っ直ぐに俺を見つめる瞳は不安そうに揺れている。
だからそんな表情をしないでほしい。

どうせならいつも通りの無表情でいてほしかった。



「約束、したからな」

そう言えば嬉しそうなオーラに変わるものだからわかりやすい。

こんなにもわかりやすい性格してたっけ?
もっと感情が読めない女だったはずだ。