「んっ」

かすかに消毒液のような匂いがして、目の前が白んだ。意識が徐々に戻ってくると、私はうっすら目を開けた。

すぐに感じた腹部の違和感。この前ほどではないけれどまだかなり痛む。身体が火照るように熱くて、全身が重だるい。熱があるんだな。そんなに重症だったのか。

ここは海堂救命救急病院の特別室だ。

自分が置かれた状況を察知し、ため息がもれた。熱のせいで記憶が定かではないけれど、ここにきてから一度目を覚ましたような気がする。

あれだけ『大丈夫』と豪語しておいて、私ったらなにをやっているの。新さんに迷惑をかけてしまうなんて。

視線を横へとずらしたとき、部屋の隅のソファに横たわる人物に気がついた。腕組みしながら規則正しく寝息を立てて、熟睡している。彼が寝返りを打つと、柔らかそうな黒髪がふわっと揺れた。

眠っていても色気が十分に伝わってきて、こんな状況なのに落ち着かない。

ずっとそばにいてくれたの?

どうして?

万全ではなく弱りきった今だからこそ、優しさがストレートに胸にしみる。

私は新さんの特別な存在だと思ってもいいの?

話してくれると言ったのに、結局聞けずじまいだ。

新さんの本音が知りたい。そして私も、どうしようもないほどあなたに惹かれているという素直な想いを伝えたい。