天満はそれ以上何もせず、雛乃の部屋を出た。

…それ以上雛乃の部屋に留まっていれば、自分自身何をしでかすか全く自信がなかったからだ。

清廉潔白、純情一直線のように見えて、血が滾るような熱い一面を持ち合わせていた。


「天ちゃんだー、どこ行ってたの?お稽古は?」


「ちょっと用事があってね。暁、今日は稽古はしなくていいよ。好きなことをして、ゆっくり寝たらいい」


「ほんと?じゃあねえ、そうねえ、天ちゃんと一緒に寝る!」


「いいけど、明日はちょっと忙しくなるから、君に構っていられない時があるかもしれないんだけど、我慢できる?」


「うん。天ちゃんと寝れるならいい!」


愛情たっぷりに育てた。

暁もまた、天満に降り注ぐような明るさと癒しを与えてきた。

この娘が無事に当主として起ち、伴侶を見つけるまでは立ち止まることはできない――

雛菊が転生してくるのを諦めていたわけではないが、もしかしたらもうこのまま独りで生を終えることになるかもしれない、と悪夢を見た後いつも、ふと頭をよぎることがあった。


だが、雛菊は…会いに来てくれた。

何の因果かまた男に執着されて弱り切っているけれど、次こそは――


「あれ?天ちゃんから雛ちゃんの匂いがする」


「さっきちょっと話をしてきたからだろうね。ほら、ちゃんと布団被って」


ひとつの床でふたり寝るのは窮屈だったが、天満の身体にぴったりくっついた暁は温かく、まだ爆発的な成長を迎えていないため身体も小さく天満の腕にすっぽり収まる。


明日、吉祥がやって来る。

雛乃の話によれば粗暴な男だということだが…

もう、あんな目には遭いたくないし、遭わせない。


「天ちゃんおやすみぃ。いい夢見れますように」


「ありがとう、おやすみ」


いい夢を見ますように。

互いに祈りながら、眠りについた。