退社時刻に彼はふらりと現れた。
突然の懐かしい顔に、みんないっせいに彼のもとに集まった。

「棚橋さんお帰りなさい」

「婚約おめでとうございます」

古巣の第一営業部にアメリカ土産を持って顔を出した棚橋亮二は、三年前と同じ笑顔で私の目の前に現れた。

以前よりも大人びて男の色気をまとった彼は、フロアー後方で遠巻きに見ていた私を見つけると、昔と同じ笑顔で話しかけてきた。

「長谷川!お前まだいたのか?
元気にしてたか」

目の前まできた亮二は、チラリと私の右手に視線を落とし

「なんだよ。てっきりもう寿退社したかと思ってたんだけど、まだ彼氏にまたされてるんだ。
おっと、セクハラか。
悪い、長谷川」

「いえ、待つのは苦ではないですから。棚橋課長は結婚間近なんですね。おめでとうございます」

自分の指輪を左手で隠し、どうにか作り笑いを浮かべて泣きそうな気持ちをおし殺す。