自分で自分の事を秀才って言ってやんの……しかも冗談ではなく結構、本気で思っていそう! 自己評価が高すぎる奴にロクな奴はいない。セラミックは子供っぽい松上を心の底でアカンベした。親友の兄でなかったら、弟にするように『何言うとるねん!』というツッコミと共に尻を引っ叩いていたかもしれない。だが松上の方はというと、そんなセラミックの思いなど、どこ吹く風である。

「アレクセイ! 困った事にどうしても目的のテノントサウルスが発見できない。このまま行くより水場を探す事にしよう。地図を見ながら、そっちに向かってくれ。急がないと肛門にキーを刺してエンジンをかけちゃうぞ!」

 先頭の大型ナイフを持つ男は後ろを振り返りもせず、薄く髭の生えた口元を尖らせると、レミントンM870ショットガンに持ち替えた。

「もうエンジンはかかってますヨ~」

 真美さんとセラミックは同時に脱力した。やはり凄い発想の持ち主だ、この人は……。

「ところでテノントサウルスってどんな奴なんですか?」

 前日に予習はしてきたが、どうしても真美さんに訊いてみたかったのだ。

「動画も見たでしょう。縞々の尻尾が長~い草食恐竜よ。大人しいけど、クチバシに噛まれないようにね」

 化石になると分からなくなるが、テノントサウルスはシマウマのように派手な縞々恐竜だった。主に4つ脚で歩き、体長は6メートルを超えて体重は1トン近くにもなる。中生代へのダイブは今回でやっと3回目となるが、セラミックは幸運な事に生きた恐竜を結構目撃している。いずれも数が多い小型草食恐竜で、デカい奴にはこちらから近付かず、鳴き声を遠雷のように聞いただけだった。

「セラミックはまだ肉食恐竜を見た事がないよね。今回水辺に行くのなら……ひょっとすると出くわすかもしれないわね!」

「ええ~、会いたくないなぁ。肉食恐竜って狩って食べても不味そう。現代でもネコ科やイヌ科の肉食獣は誰も料理して食べないでしょう」

 真美さんは呵々と笑った。セラミックが肉食恐竜を避けるのは、襲いかかってくる恐怖心からではなく食材として価値がないと平然と言ったからだ。

「ははは、食われるどころか逆にこっちが食ってやるのね。いいわ~、その意気で進みましょう!」

 先頭のアレクセイは眉間にしわ寄せ、明らかに緊張した面持ちだ。松上は背負った愛用のライフル、黒光りする豊和M1500を両手にした。

「吉田真美さん、そろそろ目的地の沼が見えるよ。恐竜がウジャウジャいるから油断しないでね」

 シダ植物の林の向こうにどんよりとした雰囲気を醸し出す、濁った緑色の水溜まりがあった。巨大トンボが2匹合体したまま水面に卵を産み落とし波紋を広げる。
 アレクセイが周囲に気を配りながら松上に合図した。双眼鏡を覗いた瞬間、古代ワニ・サルコスクスがぱしゃりと水面を弾いて飛び込んだのだ。