「あ、俺の『期間限定夕張メロンフレーバーシュワっと弾ける微炭酸』が無くなってる」



放課後、難波先生が部室に備え付けてある冷蔵庫を開けて顔を顰めた。


ふわり。


開けた窓から風が吹き込んで、先生の柔らかそうな髪が揺れる。


「…長いよ」


口を開くのが億劫で、私はやっとそれだけ返した。


難波先生は顧問でもないくせに、やたらとこの部室に出入りしては油を売りにくる。


居場所がないのか、と問いただせば「別にサッカー部のヤツらに舐められて居心地が悪くなってる訳じゃないからな」と可哀想なくらい悲壮感に溢れる返答が返ってきたので、それ以来聞くことは辞めた。


職員室にいるのも仕事を押し付けられるから嫌なのだとか。


「職員室の冷蔵庫は私物突っ込んじゃダメって言うから、知る人ぞ知る文芸部の冷蔵庫に置いておいたのに」


難波先生は子供みたいに唇を尖らせる。


それでも様になるのだから顔立ちは整っているのだと思う、たぶん。



「知らないよそんなの」


「お前だろ!」


「変な言いがかりはやめてください」


「だって文芸部員お前だけじゃん!」


「……」