終業と同時に会社を出てゆっくりと歩く。オフィスを出る時、高崎主任はまだ電話していたので急ぐ必要はないだろう。
なんなら一駅分歩こうかと思った時、不意にショーウィンドウに映る自分が目に入った。

二十八歳の年齢相応だと思う。別段若くも見えないし、おばさんくさくもないはずだ。

黒髪ストレートはそのまま垂らしているので少々重いかもしれないが、ピンクブラウンのアイメークもボルドーカラーの口紅も目が大きいだけの特徴のない顔をそれなりに彩っているはず。お洒落にお金をかけてはいないが、自分では社会人として悪くないレベルだろうとは思う。

女受けを意識した結果、男受けが良いとは思われないが。

「可もなく不可もなくってね」

そう呟いてまた歩き出す。

派遣の身で少しでも経済的安定を目指すなら、女子受けの良さは必須だ。少しでも条件の良い相手を捕まえたいなら話は別だが、男子に好印象であっても職場環境は良くならない。なんなら悪くなる可能性だってある。

自分で自分を養っていくと決めたあの日から、私は恋愛を捨てていた。移ろいやすい恋愛感情なんてものに浮かれていては生活に支障が出るからだ。