「ただいま、真湖……」
とリビングに入った雅喜は固まる。

 なんだ、これは。
 惨殺死体か?

 部屋の中は泥棒に荒らされたがごとく、荒れていて。

 真湖はベビーベッドの近くで、うつ伏せになって、大の字に行き倒れて寝ている。

 その手には小さな紙おむつが握られていた。

「……真湖」
と呼びかけると、真湖は、がぱっと起き上がり、

「はっ、赤ちゃんっ!」
と叫びながら、周囲を見回した。

 ……だから、いい加減、名前つけろよ、と雅喜は突っ込みそうになったが。

 子どもの名前に関して、最終的な判断を下すのは、真湖だと思っていた。

 子どものうちは、母親が一番、名前を呼ぶ回数が多いだろうと思うからだ。