「ふーん、その時の子犬が『リク』なんだ」

未来がリクの頭を撫でながら言った。

「そう。その『リク』って名前も友也がつけたんだ」

小学生最後の夏休み。

私はおばあちゃんの家に泊まりに来ている。

そこに前の学校で仲良しだった青柳(あおやぎ)未来(みく)が遊びに来て一緒に宿題したり遊んだりして、夏休みを満喫しているところ。

「それで、次の日に公園でまた会ったと?」

「いや、そいがさ、公園に行こうと玄関のドアば開けたら……おった」

「は?家まで迎えに来たとか?」

そうじゃない。

私がドアを開けたらちょうどお向かいのドアが開いたところで、出てきたのが友也だった。

あの日、私が帰ろうとした家は入っていったアパートにはなくて。

よく似た棟が並んでいるものだから、隣の棟と勘違いしていた。

だから結局友也と同じ棟に住むことになったのだ。

まさか隣同士だとは、ご対面するまで知らなかったけど。

「でも、おばあちゃんが飼ってくれることになって良かったね!」

「うん。友也も安心したらしくて喜んどったよ」

おばあちゃんに子犬と友也の話をしたら『もう友達できたとね?良かったね』って言ってくれた。

私たちが社宅に引っ越して家が寂しくなったから、子犬を引き取ってもいいと言ってくれたおばあちゃん。

おじいちゃんは「好きにしたらいい」と無関心を装っていたみたいだけど、おばあちゃんの目を盗んでこっそり遊んでくれているようだし。

「ねえ明日美、今の学校、楽しか?友也くんみたいに仲良しの友達できた?」

「友達ね……。優しい人もおるし、ちょっとまだ馴染めん人もおるよ。やっぱり未来たちと一緒におりたかった!!」

夏休み中はみんなプールに行ったり、サマースクールで学校に集まったりしてるみたいだけど。

未来と一緒だったらよかったのにって、いまだに思ってしまう私がいる。

夏休み明けて新学期が始まるのがちょっとだけ憂鬱だ。

「私もばい。明日美がおってくれたらよかったとにって……思いよるよ」

なんだか未来の声がちょっと暗くなったような気がして、未来の顔をじっと見つめたけど、すぐにパッと笑顔を見せて明るい声に戻っていた。

「ねえ、友也くんってカッコよかと?イケメン?」

「はぁ?イケメンじゃなかよ。イケメンって例えばどんな人?」

私は友也のことを『カッコイイ』なんて思った事はない。

未来のいうイケメンっていうのが、ちょっと分からないけど。