陽の瞳が紬花を映さなくなったのはいつからだろう。

カフェを出て、その背中に追いつき声をかけた時も、振り返りはしたもののほんの一瞬目が合っただけですぐに逸らされた。

その後もエトワール内では同じような様子で、帰りのリムジンでも陽の視線はずっと紬花に向くことはなく、車窓の奥に流れる夜の街を見つめているのみ。

話しかけても「ああ」や「わかった」などの簡単な返事のみで、やはり紬花を見ることはなかった。


(悪化してる……!)


確実に陽の不機嫌さが増していることをひしひしと感じながら、紬花は白ワインを飲み干す陽の観察を続行する。

用意した夕食は全て食べてくれた。

素っ気ない口調ではあったが、美味かったとも言ってくれた。

しかし、隠しきれない苛つきが室内の空気を刺々しくしている。

この空気を柔らかくするいい方法はないか。

いや、その前に体調不良の悪化であれば大変だ。

紬花は食器を片付けながら、あくまでもさり気なさを装いつつ「御子柴さん」と声をかける。


「なんだ」

「もしかして、風邪ひいてますか?」

「ひいていない。どこをどう見たらそう見えるんだ。お前の視力はモグラか」

「そ、そうですよね。それなら良かったです」


確かに、咳や鼻水といった風邪の症状は見られない。

頬の赤味も瞳が潤んでる様子もないので、発熱している可能性もないだろう。


(というか、モグラって視力悪いんだ)


あとでネットで検索してみようと思いつつ、とりあえず体調不良ではないことがハッキリして安堵した。

では、何が理由なのか。