「全力で頑張らせていただきますので、どうかよろしくお願いします!」


高級感溢れる静かな内廊下に、明るいソプラノが響く。

レインボーブリッジを望める大規模タワーマンションの五十二階。

開かれた玄関扉から顔を見せた家主に、(たちばな) 紬花(ゆいか)は気合十分といった様子で頭を下げた。

彼女が立つ脇には、レトロ感漂うクラシカルなスーツケースが置かれている。

家主である御子柴(みこしば) (はる)は、チラリとそちらに目をやり、次いで紬花の頭頂部へと視線を移すと小さくため息を落とした。


「必要ないと言ったはずだが、なぜ来た」

「私のせいですから、私がお世話するのは当然です! それに、あゆみさんにも、とってもいいアイデアだと褒めていただきました」


嬉しそうな笑みを浮かべて紡いだ名は、紬花の頼れる職場の先輩、廣崎(ひろさき) あゆみだ。

しかし、陽にとってはある種天敵とも呼べる存在であり、名前を聞かされ先ほどよりも深いため息を吐いた。


「あいつ……いつもいつも余計なことを……」


あゆみは自分より年下である陽をからかって楽しむのが趣味という女性だ。

今回、紬花に世話することを勧めたのも面白がってやったのだろうと陽には安易に想像できた。