揺れ動く電車の中、監察医の霧島藍(きりしまあい)は医大生の河野大河(こうのたいが)に一枚の写真を見せた。その写真は、藍がいつもかばんに入れてある大切なものだ。

「この人は?」

「桐生青磁(きりゅうせいじ)。私より八歳年上で……私の初恋の人なの」

「は、初恋!?」

写真の中には、日焼けした肌にくせっ毛の男性と幼い藍が笑っている。写真の中の二人は浴衣を着ていた。

「お兄ちゃんは、私の家の近所に住んでいてよく私の面倒を見てくれていた。まるで本当の兄妹のようだったわ。ある日、お兄ちゃんから将来の夢を聞かされたの。お兄ちゃんの夢は監察医になることだった」

縁側で二人で座り、おやつを食べながら話をした。そのことを藍は今でもよく覚えている。

『俺、将来は監察医になりたいんだ』

そう言って笑う青磁に、幼かった藍も「あいもかんさついになる!」と言った。亡くなった人を解剖するなどあの頃の藍にはよくわからなかった。ただ青磁とずっと一緒にいたかったのだ。