放課後。校舎がシーンとする時間。
私はいつも、図書室に通っている。
「先生ーきたよーー」
奥で仕事をしている、朝美(アサミ)先生を覗いてそう言った。
「おぉ、いらっしゃい」
すると先生は、いつものように優しく笑ってくれる。
図書室にいつもいる朝美先生とは仲良し。
「あ、これ、今日新しく入った漫画」
先生は、ふと思い出した様子でこちらに戻ってくると、何かの本を私に差し出した。
差し出された手元を見ると、それは綺麗な表紙の、恋愛漫画だった。
「へ~…」
そこには、「好き」と題名が書かれている。
「恋愛マンガ…」
全然読んだことのないジャンルだな…
「そうそう、読む?」
「…う~ん」
普段読まない恋愛マンガに、ほんの少しの興味を持ち、本を受け取った。
本を受け取ると、いつもの窓側の隅っこの席に座った。
ここは、私のお気に入りの場所。
窓から部活をしている人を眺められるし、なにより隅っこは落ち着く。
だから私の、お気に入りの場所なんだ。
1巻の表紙は、女の子が芝生の上にしゃがんで、なにやら一つの花を持っている様子だった。
これは…黄色のチューリップ…かな…?
お花の知識はそんなにないけど、チューリップくらいは見たことある。
広いどこまでも続きそうな芝生の上で、
女の子は黄色いチューリップを持って、しゃがんでいる。
その目線の先にはまた、黄色いチューリップの花があった。
たくさんある花の中で、その花だけを切なそうに見つめて、
そっと片手で触れる女の子に、なんだか私は、少し切ない気持ちになった。
…まだ読み始めてすらないのに…
とても胸がぎゅっと苦しい気がする。
それと同時に、すごくこの本が読みたくなって、私は次のページをめくった。