ある日、わたしが起きると、物音ひとつしない。

 母は仕事をやめていたし、下にいるのかなと思い、階下に向かう………が、いない。

 わたしはわけのわからない不安にかられる。家の中を全部見て回る。だれもいない。
 
 そうだ!置き手紙!わたしはバタバタと台所のテーブルを見る。………ない………。
リビングかも…!行ってみるが、ない。

 わたしは、なぜか、見捨てられたような気分になった。

なんで?なんで?なんで?………?
エンドレスに続く疑問。

みんながどこへ行ったのか。そんなコトはどうでもよかった。ただ、わたしに黙って勝手に出て行ったことに不安が強くなる。

 わたしが悪い子だから、わたしが言うこと聞かないから、きっと怒って出て行っちゃったんだ。

 何故かそう思ってしまう。寂しくて、不安で、怖くて…2階の自分の部屋のベッドに潜り込む。

 呼吸が速くなっていく…わたしは小さな声で、たったひとりでつぶやき続けた。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…。ごめんなさい…。ごめんなさい…。」

 涙が溢れ、嗚咽が漏れる。呼吸はどんどん速くなり、誰か助けて!誰か……。

 そう思いながら、意識が遠のいた。

 気がつくと、階下からは声がしていた。わたしは、転がり落ちる勢いで階下に下りる。

 上の姉は不機嫌そうに2階へ向かう。わたしは、姉には目もくれず、母ちゃんに文句を言った。

「どこ行っちょったん?」
「病院よ。言ってなかったかね?」
「聞いて無いし!…ってか、ウチひとり残して行くなら、メモくらい置いていっちゃあ?こっち、不安で過呼吸おきてヤバかったんね!」
「あ〜、ごめんごめん。次からは気をつけるね。」

 はぁ…。とため息をついて上に上がる。

 姉とはもう数カ月は口をきいてない。また1つ大きなため息をついて、自室に入った。

 わたしは部屋に常備していた酒を飲んだ。少し拒食気味のときは、大抵酒でカロリーをとっていた。

 実家の居心地が悪かったわたしは、大抵外をウロウロしていたので、あまりに痩せすぎて、体力が無くなるのは本末転倒だった。

 1度過食になったことがあった。
 過食嘔吐だった。1度食べ始めると止まらず、食べるものがなくなると、今度は一転して、指を…終いには手を口の中に押し込んで、全て吐いた。

 胃液の味がして、体がダルくなると、部屋に転がり、なんとなくすっきりしたような気になっていた。

 手には吐きだこができ、胃液の臭いが体からしているような気がしていた。

 …が、次から次へと食べては吐き出す行為に、父ちゃんは、
「吐くなら食うな!食べ物がもったいない!」
母ちゃんも
「なんで吐くのに食べる必要があるの?食費がたいへんなん!」
と、怒られるだけだったので、食べないことにした。

 そしたら、今度は何を見ても美味しそうに見えない。食べたいとも思わない……逆に気持ち悪くなって食べれなくなった。

 父ちゃんは、今度は
「なんかちょっとでも食べれんのか?」
と聞いてくる。

「食べんなっちったの父ちゃん達やろ?食べたくないん!吐くけん…。」
と、わたしが言うと、父ちゃんは野菜ジュースをいっぱい買ってきて、
「これだけでも飲んどけ!」
と言った。

 わたしは焼酎を野菜ジュースで割って、ほんとにチビチビ飲んだ。