テロリストに学校を占拠された。

字面だけでは誰も信じてくれないだろう。中二病の妄想と一蹴されるのが関の山だ。

でももしそれが現実に起こったら?

ある人は言う。

俺は隙を突いて銃を奪い、テロリストを倒してヒーローになると。

ある人は言う。

俺は好きな女子を守る為に盾となり、一命を取り止め結ばれると。

そんな絵空事を言う奴の頭に弾丸をぶち込んでやりたい気分だ。

今教室に陣取っているテロリストは四人。

全身を特殊部隊ばりに武装しており、アサルトライフルを所持。

どう見ても素人の犯行じゃない。

教室の机は全て乱暴に蹴散らされ、僕たちは教室の真ん中に円形で座る形に集められていた。

まだホームルームが始まる前だったので先生もいない、文字通りの孤立無援状態。

占拠から一時間が経過した。未だに助けが来る気配もない。

「……おかしいな」



一番近くの秋人が小声で囁いた。

「おかしいって何が?」



僕も出来る限り小声で答える。

「しばらく経つのにこちらに何の要求もしてこない。まるで何かを待ってるみたいだ」

「身代金が届くのを待っているんじゃない?」

「だとしてもパトカーのサイレンやヘリの音一つ聞こえてこないのは不自然だろ」

「あ……確かに」



耳を澄ませても、外は水を打った様に静かだ。

というか――さっきからこの教室しか人の気配がないのは気のせいだろうか?

しかしそんな僕の予感を肯定するように、テロリストの一人が突然命じた。

「よし、お前らが最後だ。全員俺の後に続いて教室を出ろ」



どうやらもう他の生徒たちは全員、校舎の外に連れ出された後だったらしい。

なぜ? わざわざ学校を占拠したのに、人質を連れ出してしまったら意味がないじゃないか。

そんな疑問を口にする間もなく、テロリストが生徒たちを立たせて連行していく。

大半の生徒は、もしかしたら解放されるのではという期待で顔を緩ませている。

が……僕も立ち上がって列に並ぼうとした瞬間、男の一人が僕に銃を突きつけた。

「お前はダメだ、雨宮勇樹。ここに残れ」

「え……?」



戸惑う僕の前で、秋人が男に噛みつく。

「どういうことだよ! どうして勇樹だけダメなんだ!」

「安心しろ高木秋人。お前も一緒だ」

「え……は⁉」



途端、秋人の顔が真っ青になる。

更にテロリストは辺りを見渡し、綾瀬と神崎さんを指さして冷酷無慈悲に告げた。

「そして綾瀬成美、神崎詩織。お前たちにも残ってもらう」

「わ、私もですか⁉」

「え、ええっ⁉」

「そうだ」



動揺する二人に、男は感情のこもらない声で言った。



「お前たち四人の犠牲を持って――この学校の生徒は解放される」