「やあ、随分出るのが遅かったじゃないか。愛しの彼女と相談事でもしていたのかい?」



電話が繋がると、開口一番にケニー先生は皮肉っぽく言った。

「ええ。相手が人体実験が趣味のマッドサイエンティストともなれば相談くらいしますよ」

「ハハッ、冷たいなあ。でも愛しの彼女ってところは否定しないんだね。どうせ冬峰さんも一緒に聞いているんだろう?」



ケニー先生はからかい混じりの笑い声を上げる。

これが友達とのやり取りなら照れ笑いの一つもするところだろうけど、生憎とそんな気分になれる相手ではない。

「何の用ですか。もう二度と僕たちと関わらないんじゃなかったんですか?」

「関わらない、とは言ってない。会うことはないと言ったんだよ。もっとも、電話でのやり取りもこれで最後になるけどね」

「僕は貴方の声を聞くだけでも吐き気がします」

「なら電話を切るのは君の自由だ。ユートピアートに関する重大な情報を聞かなくても良いのなら、ね」



その単語に、僕は目を見開く。

スマホはスピーカーモードにしているので奈波にも全て聞こえているが、彼女はまだ何の反応も示していない。

僕は奈波の様子を確認し、ケニー先生に答える。

「なら要点だけ簡潔に教えて下さい」



先生のことだからてっきり無駄話を挟んでくると思ったが、彼は淡々とシンプルにこう答えた。



「おめでとう、雨宮君と冬峰さんは選ばれた――だから二人に世界をあげよう」